バスケットいっぱいに詰め込んだサンドイッチとおにぎりが案外重たい。

でも、二人とも男の子だし、いっぱい食べるだろうし。

(それに普段からいっつもお腹すいたって言ってるし)

琉夏くんには琉夏くんの事情があって、多分、前のままじゃいられなかったんだ。

最近何となくそういうことだって気付いた。

だから、家を出て、独り暮らし始めちゃったんだろう、しかもあんなものすごい所で。

(ちょっと行き当たりバッタリだけど、何か妙に琉夏くんらしいって思うのは何でだろう?)

私には想像もつかないよ。

家にはお母さんもお父さんもいて、守られていて、ゴハンの心配もないし、家の事だってお手伝い程度で済んでるからとってもラクチン、アルバイトしているのはあとほんの少しお小遣いを増やしたかったからだけど、働き出したならもういいわよねってお小遣い打ち切りされちゃったから、懐が辛いのは何となく分かる。

まあ、それでもやっぱり二人の比じゃないだろうって思うけど。

「よし、と」

お皿なんかはあるみたいだから、食べ物だけで大丈夫のはず。

一応、保険に紙のお皿をちょこっとだけ、ジュースは途中で買って行くとして、準備オッケイ!

(行くぞ)

言ってきますってお母さんに声をかけて玄関を出た。

家から、琉夏くん達が暮らす海辺のダイナーまでは歩いていける距離。

ダイナーって何だろうって調べてみたら、アメリカでは一般的な、日本で言うところの食堂みたいなものらしい、ハンバーガーとかポテトとかコーラとか出てくるみたいで、琥一くんが喜びそうだなって思っちゃった。

実際、あの場所での暮らしも楽しんでるみたいだし。

(二人とも、喜んでくれるかな、どうかな?)

ちょっとドキドキしながら歩いて、歩いて、歩いて―――やっと見えてきた、ちょっとボロの“テナント募集中”

勝手に住んじゃっていいのかなって心配してた私に、琥一くんが、実家の不動産が管理してる物件なんだって教えてくれた。

とりあえずおまわりさんや法律に怒られる心配はなさそうでちょっとホッとしたけど、でもやっぱりこういう生活ってどうかと思う。

丸窓の付いた、錆びた大きなドアをノックして、ノブをちょっと引っ張ってみたら簡単に開いちゃった。

無用心にビックリしながら隙間から覗いてみたら、ソファでダラッとしていた二人が首を伸ばしてこっちを見てた。

「あれ?」

「お?」

同時に聞こえてきた声に、私は「おじゃまします」って中に入ってく。

「佳鈴、どうしたの?」

「それはこっちの台詞だよ、二人とも居るって思わなかった、おやすみの日なのに、出かけないの?」

「いや、今日のシフト夕方からだからよ」

琥一くんがソファに腰掛けたまま答える。

琉夏くんはすぐ立ち上がって私のほうに歩いてきた。

途中で琥一くんをちょっと振り返って「金、無いからね」って言って、また私を見る。

「俺も夕方からだからね、暇潰ししてたの、コウと二人っきり、そろそろ退屈で死ぬところだった」

「オイ」

思わず笑っちゃった私にムッとした声を上げたのは琥一くん。

琉夏くんも一緒になって笑って、不意に私が両手で持ってるバスケットに「何それ」って目を向けた。

「重そう、何入ってるの?」

「これはねえ」

私はよいしょよいしょって琥一くんが座ってるテーブル席までバスケットを持っていった。

傍で琉夏くんが興味津々にこっちを見ていて、琥一くんも「何だ?」って不思議そうな顔してる。

今度は頑張って重たいバスケットをテーブルに上げようとしたら、途中から琉夏くんが手を貸してくれた。

バスケットは簡単にテーブルに乗せられた。

「結構重いね、これ、家から持って来たの?」

「そう、頑張っちゃった」

「オイ、何だこれ、何か」

言いかけた琥一くんのお腹がぐうーって鳴き声を上げる。

同時に琉夏くんのお腹からもキュルキュルって聞こえて、合唱みたいで思わず笑っちゃったら、二人は顔を見合わせて気まずそうに赤くなった。

バスケットから微かに漂ってくる食べ物の匂い。

私はもったいぶらずに蓋を明けて、中に詰め込んだおにぎりとサンドイッチを取り出した。

「ごはんね、作ってきたんだよ」

「おおお!」

「おお!おおおー!」

大きな声を上げて体を乗り出してくる二人。

思わずまた笑っちゃったんだけど、今度は二人とも全然気にしないで、くるってこっちを振り返って食べていいのかって聞いてきた。

「いいよ」

頷くと、琉夏くんもいそいそとソファに腰を下ろして、二人で向かい合ってテーブルの上をキラキラした目で見渡してる。

「けど、お前、何だって急に」

「今日、誰かの誕生日だっけ?」

「お前か?」

違うよって苦笑いで首を振り返した。

本当は―――こんなものすごい所で暮らして、いつもお腹を減らしている幼馴染の健康状態をちょっと心配しただけなんだけど、それを言っちゃうと気にしそうだから、料理の練習って答えておいた。

二人して急にじっと私を見てから、でもすぐニッコリ笑い返してくれる。

「っつうことは、俺らは練習台にされたってワケか」

「えっ」

「練習台でも全然いいよ、おにぎりうまそう!」

「だな、腹に溜まれば何でもいいか、この際練習台でも目ぇ瞑ってやる」

「ちょっと!」

「あはは!サンキュー佳鈴、幼馴染の愛情に感謝!」

「ああ」

小さい声で「悪いな」って付け足した琥一くんに、気付かないフリ。

全部ばれちゃってるみたい、でも、私たちは気を遣いあうような間柄じゃないもんね?

早速おにぎりを両手に持ってパクパク食べ始める琉夏くんを、行儀が悪いって叱る琥一くんもちゃっかり両手にサンドイッチ、兄弟なんだから。

二人の食べる様子をテーブルの傍に立ってニコニコ眺めてたら、どうしたのって琉夏くんが自分の隣を勧めてくれた。

「佳鈴も一緒に食べよう、ごはんは皆で食べたほうがおいしいよ」

「うん」

手渡されたおにぎりは、今朝早くに起きて一生懸命作った力作。

何となく不恰好で、食べてみたら想像していたより塩見が効き過ぎちゃってたけど、琉夏くんも琥一くんもそんなの気にもしないでパクパク食べてくれている。

サンドイッチのレタスも、ちょっと水っぽかった。

でも、やっぱり食べてくれる。

嬉しいな。

「ねえ」

「んー?」

口の端にお米粒を付けた琉夏くんが振り返って首を傾げた。

「琉夏くん、お米粒」

笑って教えてあげたら、舌でペロリと舐め取ってから改めて「なあに?」って。

「また今度ね、料理の練習したら、味見して欲しいんだけど」

「いいよ!勿論、大歓迎!」

ニッコリする琉夏くん。

琥一くんも「今度は野菜の水しっかり切ってこい」って、ちょっとイジワルな笑顔。

「佳鈴の料理の腕上達に全面協力してやるよ、だから今度はイクラのおにぎり熱烈希望」

「バカ、イクラは高ぇだろうが」

「あ、そっか」

「いいよ、いっぱいは作れないけど、琥一君は?」

「じゃあ、肉」

「何肉?」

「牛に決まってんだろ」

あんまり(当たり前!)って顔で言うもんだから、思わず琉夏くんと顔を見合わせて笑ったら、今度はなんだよって口を尖らせちゃった。

こんな風に喜んでもらえるなら、何度だって作ってくるよ。

海辺のダイナーは、吹きっさらしの外壁や窓がバタバタ言って、夏は暑そうだし、冬は寒そうだし、ちっとも快適そうに見えないけれど、でも凄く楽しい。

初めてここに琉夏くんが連れて来てくれたとき「住んじゃえよ」って言われた時の事を少しだけ思い出していた。

―――琉夏くんは琥一くんと別れるためにこの場所に来たみたいだけど、今の琥一君は凄く楽しそう。

(私には、そう見えるよ?)

きっとそれは琉夏くんも同じなのに、見当違いなのかな。

二人と一緒に居ればいるほど、二人の事―――琉夏くんの事、知りたいなって思う。

こうして少しずつ離れていた時間を埋めていったら、いつか話してもらえるかもしれない。

(餌付け、ってわけじゃ、ないけど)

ちょっとしょっぱいおにぎりを食べてくれる琉夏くん、水っぽいサンドイッチを頬張ってくれる琥一くん。

二人の姿を眺める私の胸に、あったかいけど、切ないような、不思議な気持ちが溢れていた。

 

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